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『マイクロ流体を用いた針なし気泡注射器実現への研究』HEADLINE

『マイクロ流体を用いた針なし気泡注射器実現への研究』

芝浦工業大学(機械工学科) 山西 陽子

電気メスは外科手術ではよく使用される堅固で比較的安価な技術であり,人体に高周波電流を流し,メス先に生じるアーク放電や接触抵抗によってジュール熱が発生し,この熱が瞬時に細胞を加熱し爆発・蒸散することによって切開作用を発生させますが,約100年前に発明されてからそのメカニズムにほとんど変化はありません.一方,約30年前に発明されたレーザメスは完成度を上げ続け,細胞とレーザの相互作用は深く研究され,細胞サイズレベルの正確な切除を可能にしています.そこで,細胞手術を行うことができる新しい低侵襲・高解像度な電気メスについての着想に至りました.この電気メスの出力を細胞レベルに落とし,ガラス絶縁膜で覆ったマイクロ電極を作成して実験を行いました.

研究当初は細胞を切るマイクロ電気メスは,細胞に熱ダメージを与える,電気分解による無秩序な気泡の発生,電極摩耗,切開後に付着するタンパク質による電極劣化等の失敗続きでした.しかしながらある時,電極先端に空隙(バブルリザーバ)を設けた構造で放電した時に,これまで無秩序に発生していた気泡に指向性が存在していることに気づき(図1),高速度カメラを用いてその気泡を確認したところ,サイズの揃った一列の高速気泡列であることがわかりました.この気泡によって細胞表面も加工できることがわかり,気泡で細胞を切る「バブルメス」と呼ばれるデバイスとして研究を進めるに至っています.ガラス電極をアクティブ電極とし,加工対象である細胞を対向電極に接触させて電極間に電圧を印加することで,先端から非常に小さな気泡を連続して打ち出し,その力で細胞を加工するという方法で,堅い植物細胞でも加工できる力がありながら,加工表面に熱ダメージを与えないといった利点があります.

出力の発振装置は汎用医療用電気メスの出力を細胞レベルに出力を落としたものを使用しています.周波数は450kHz固定であり,加工対象である卵子は培養液中に存在し,対向電極に接触しています.電解質溶液である培養液中へ高速で発射された気泡界面は卵子に近づくと同時にキャビテーション現象を生じて圧潰し,細胞表面を加工します.まず電界誘起気泡メスによる細胞加工性能を評価するために,ブタ卵子の透明帯の加工実験を行いました. 図2は高速度カメラ撮影時の卵子加工の様子及び共焦点顕微鏡で撮影した細胞加工後の卵子の断面図です.図よりわかるようにバブルメスより放出された指向性を有する気泡がブタ卵子の透明帯や細胞質を加工していることが確認されました.このバブルメスは顕微鏡に装着する汎用マイクロマニピュレータ先端に簡単に装着・離脱可能であり,メス自体の単価も安価であるために,幅広いバイオ分野の研究者に使用可能なデバイスであると考えます.
また,最近ではバブルメスの先端に試薬をためる部分を作っておくと,打ち出された気泡は,その試薬を付着したまま液中を数百μm程度気泡とともに輸送されることもわかっており(図3),細胞加工と同時に試薬導入・遺伝子導入等が可能であることを確認しています.この特異な液中現象を利用する電界誘起気泡インジェクションメスはキャビテーションの破壊力と気泡の付着性による高い輸送能力を同時に利用したデバイスであり,これまで困難であった幅広い種類の細胞へのインジェクションが期待されています.

これらの技術を応用し, 現在は下記に示す主に3つ分野のプロジェクトが進行しています. 1つ目は細胞を小さい気泡のメスで加工すると同時に試薬を投入する技術(気泡によるキャビテーションとインジェクション技術), 2つ目はプラズマを気泡の中にいれて液中を輸送する技術(反応性界面利用技術), 3つ目は収縮していく気泡を利用して結晶をつくる技術(気泡収縮・分子凝集技術)です.
最近では, これまで培養液中で使用していた気泡インジェクションメスを改良し, 空気中でも使用可能なデバイス(針なし気泡注射器)となり(図4), インジェクションの使用用途が格段に広がりました. また, 出力を上げて気泡とプラズマの両方の効果を利用した新しい難切削物加工装置としてプラズマキャビテーション加工デバイスも開発しております.
このようなバブルメスをはじめとしたマイクロデバイスの開発が進むと,生物学や遺伝子工学の研究をさらに容易にし,医療現場だけでなく,薬の研究や動植物の品種改良などでも,大きな後押しになるのではないかと期待されています.マイクロナノという特異な空間では思いもよらない現象が起こることも多いため,エンジニアとしての常識にとらわれず,さまざまな現象に関心を持ちながら研究を進めていくことが,医用工学の進化につながっていくと信じています.

<お問い合わせ先>
山西 陽子 (芝浦工業大学機械工学科 〒135-8548 東京都江東区豊洲3-7-5)
Tel: +81-3-5859-8013, Fax: +81-3-5859-8001, E-mail: yoko@shibaura-it.ac.jp


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